補遺a:エレキギター・キットの製作
この補遺では、キットの製作過程を記します。
使用したキットは、SAGA というアメリカの会社の FV-10 で、Flying V 型のギター・キットです。日本では、ST型やTL型のキットはお馴染みですが、Flying V 型はあまり売っていないし、売っていても高価なので、アメリカから取り寄せてみました。
1. 検品・下準備
注文してから3週間ほどで、こんな梱包で届きます。関税はかかりません。
ボディ、ネック、ハードウェア類は、こういうふうに入っています。
コントロール部は組み立て配線済みですが、VOLUMEが二つあるはずなのに、TONEになっています。しかも、可変抵抗の回転がやけに重くて楽器用ではないようです。
裏返してみると、使用されている部品は、全て最低価格帯の物ばかりです。これでは趣味の道具としては不満なので、満足できる性能の部品を別途入手します。
ボディを見るときれいなバスウッド材で、全てのネジ穴が開けられています。ストラップ・ボタンの穴まで開いているのですが、この位置には取り付けたくないので、パテ埋めします。
ヘッド裏には、輸送中に付いた打痕が3か所にあります。これもパテ埋めします。
ネック接合部には打痕が3か所もありますので、やっぱりパテ埋めして研磨しました。
ピックアップは Seymour Duncan の JB、糸巻きは Grover のロトマティック。これらは日本で買うと高いので、アメリカの楽器店から買いました。
ナットもこの品質ではどうしようもないので、牛骨素材で作ることにします。
ボディとネック以外は全ての部品を捨てて、定評のある物を使います。別途入手した部品は、つまみ、可変抵抗器、ストラップ・ボタン、スイッチ、テイルピース、ブリッジ、ナット素材、ネジ、送料等で、$95くらいです。
↑つまみなど、必要数以上に買った部品もあります
組み立て説明書はこういうものが添付されています。平易な英語で書かれているので、読解に苦労することは少ないでしょう。ただし、弦アースの取り位置が違っているのは単純ミスでしょうか、設計変更でしょうか。
2. 前加工
ネック接合部がキチキチなので、塗膜厚を考え、少しヤスリ掛けしておきます。ネック接合時に塗膜にヒビが入るのを防止するためです。
ネックの塗装前に、接着してあるナットをはずします。木片を当てて叩くと、簡単にはずれます。マスキングテープは指板のキズ防止用です。
指板がローズウッドなので、マスキングします。塗装完了後はできるだけ早く剥がします。
ボディの塗装には、取り扱いの容易さから、取っ手を付けます。ボディはサンディング・シーラー塗布&研磨済みです。
3. 塗装
ネックに金色のスプレーを吹きます。缶を温めて内部のガス圧を上げ、離れて吹くのがコツです。ネックもサンディング・シーラー塗布&研磨済みです。
ボディも、端部から吹き始め、全体をまんべんなく、そして垂れないように吹きます。吹き始めと内容液残量が少ないときは飛び散ることがあるので、注意します。
写真ではわかりづらいのですが、メッキ調ゴールド、というスプレーを使用しました。。
ゴールドをまんべんなく吹いたら、今度はクリアのスプレーを吹きます。
使用した缶スプレーです。メッキ調ゴールドは金属粉が浮いてくるので、クリアと同じシリーズで揃えたかったのですが、市場にありません。
ヘッドの裏に何もないのが寂しくて、ちょっと文字を入れてみました。
指板に貼ったマスキングテープを剥がします。
塗料が乾いたら、サンドペーパーで研磨します。まずは、#600の耐水ペーパーで磨きます。
#600で磨き終えると、スベスベの艶消し状態になります。
次に、#1000の耐水ペーパーで磨きます。
#1000で磨き終えると、こんな状態になります。
今度は、#1500の耐水ペーパーで磨きます。
#1500で磨き終えると、こんな状態になります。
更に、中目の研磨剤で磨きます。
中目の研磨剤で磨き終えると、このように、かなりハッキリ電燈が映る状態になります。
最後に、仕上げ用の研磨剤で磨きます。
仕上げ用の研磨剤で磨き終えると、鏡のような状態になります。
コントロールキャビティ内部にまんべんなく導電塗料を塗ります。
ネックもボディと同じ手順で研磨します(以下省略)。
4. 部品製作
ピックガードもキット付属のものではおもしろくないので、ステージ映えするように、ミラーのアクリル板で作ります。安価で加工が容易な押し出し材と高硬度のキャスト材とがありますが、今回はキャスト材を使います。
切削加工しやすいように、アクリル板の上に直に製図してしまいます。
アクリル板は割れやすいので、注意して、穴開け、切断をします。
切断部にヤスリ掛けして滑らかにし、最後に外周にテーパーを付けて、ピックガードとトラスロッドカバーの完成です(まだ保護フィルムが付いたまま)。
ピックガード裏にノイズ防止の処理をするため、市販品に使用のアルミ箔より強力な銅箔を使うことにします。
部品位置を測って必要寸法を算出し、銅箔を切り出します。
ピックガードの裏に銅箔を貼ります。なお、キット付属のものには何も貼ってありません。
デザインナイフで、部品穴を切り抜きます。
牛骨素材でナットを作ります。今回はお手本があるので楽ができます。
のこぎりで長辺を切断し、ネックのナット溝よりわずかに厚いのをヤスリで0.4mm薄くします。
ヤスリで大まかに外形を整え、ナットファイルで弦溝を軽く彫ります。
↑手前はネック専用の定規。弦溝間隔の確認をします
ナットの加工は、とりあえず、ここまでにしておきます。仕上げは実際の弦を張って、現物合わせでおこないます。
5. 組込 & 6. 調整
ハードウェアを取り付けます。必ずレンチを使って、適度なトルクで締め付けます。
ピックアップも取り付けます。このピックアップは取り付けにくいので、コツが必要です。
配線をします。弦アースとコントロールキャビティ内部シールドアースの線はまだです。
配線完了後、アンプにつないで音出し確認をします。音叉を使うのが便利ですが、TONEの確認はできません。
コントロールキャビティ壁の一部に、可変抵抗器の外周部が当たりますので、少し削ります。
↑実際には、導電塗料を塗る前に加工した
また、テイルピース中軸用の穴の深さが足りません。
↑これは導電塗料を塗る前の確認写真
そのため、テイルピース中軸用の穴をドリルで少し掘り下げます。
↑これは導電塗料を塗る前の加工
コントロールキャビティ内部に塗った導電塗料のアースを取るため、ラグをネジ止めします。
回路アース線とブリッジからの弦アース線とをラグにハンダ付けします。
ピックガード・アセンブリに弦アース線をハンダ付けし、ボディに仮止めします。
ヘッドに糸巻きを固定するため、位置決めし、仮止めします。
ヘッドはメイプル材で硬いので、ドリルでネジ用の穴開けをします。
ネジ頭をなめないよう、慎重にネジを締めて糸巻きを固定します。
ネックにナットを瞬間接着剤で接着します。液状よりもゼリー状の方が使いやすいようです。
ボディにネックを固定します。ネジは対角線上を均等に少しずつ締めていきます。
ブリッジを取り付けます。弦アースの線を確実にブリッジのスタッドに噛ませます。
ボディを傷付けないように気を付けて、テイルピースを取り付けます。
ピックガードを本固定して、弦を張ります。
弦に合わせてナット溝をヤスリで整形します。溝底のフレット側が指板と並行でないと、ビビリ音が出ます。
ネックの反り状態を見て、トラスロッドを調節します。
トラスロッド・カバーを取り付けます。硬いメイプル素材なので、ネジ頭をなめないように注意します。
ボディにストラップ・ボタンを取り付けます。
弦高が最適になるよう、ブリッジ高を調節します。
ブリッジのコマを動かして、オクターブ調整をします。
音量バランスが取れるように、ピックアップの高さ調整をします。
出来上がったギターをギターアンプに立て掛けるとこんな感じです。素晴らしい音が出ます。