3. 塗装

何らかの塗装をする事をお勧めします。どの工程も手抜きは厳禁です。

 

3.1.       準備と塗装と塗料の概要

まず、無理の無い塗装作業をするために、対象物には「取っ手」をつけておくことをお勧めします。

たとえば、ボディには、30cmくらいの長さの取っ手を、ネックボケット部にネジ止めしておき、この取っ手を持ってスプレーすれば、作業がし易いわけです。

塗料には、いろいろな種類がありますが、楽器に使用されるものは、主に次のものです。楽器専用と銘打ったものもあります。作業者の健康面を考えると、楽器専用水性塗料を選びたいところです。

(1)     水性塗料

(2)     ラッカー(ニトロセルロースラッカー)

(3)     ポリウレタン

(4)     オイル

下地からトップコートまで、同一の塗料で塗るべきです。たとえば、水性塗料で下地を作り、その上にラッカーで仕上げる、というようなことをすると、後ではがれたり、変色したりする危険性があります。更に、仕上げの美しさや経年変化の少なさから言うなら、できれば同一メーカーの同一シリーズで通すことをお勧めします。

「オールドギターはニトロセルロースラッカーだから、これが最高だ」という声を良く聞きますが、これは思い込みの一種ではないでしょうか? 半世紀以上前の塗料が最高!だなんて?

第二次世界大戦後の余剰爆薬原料の処理に困って開発した、という話さえあります。

確かに、ニトロセルロースラッカーは、ごく薄く仕上げることができるので、「楽器に塗装は必要悪」という思想からいうと、最適かもしれません。

しかし、塗装全厚0.1oで仕上げたのでは、実用性が低いのではないでしょうか?

そう言う面から見て、量産ギターのほとんどがポリウレタン塗料を使用しているのは、合理的といえます。

というのは、静電塗装室で作業すれば、ポリウレタン塗料は非常に少ないスプレー回数で必要な厚みまで塗料を乗せることが可能だからで、言いかえれば、「必要な性能を安価に入手できる」良い材料と方法と言えます。

実際、カスタムギターショップなどでは、ボディをラッカー仕上げするのに数万円を必要とするのは普通です。なぜなら、下地からトップコートまで、最低でも十数回、多ければその数倍の回数、塗料を吹き付けなければならないからで、また、高湿度条件下でスプレーすると表面が白濁するため、塗装環境を整える必要があり、これでは高コスト塗装もやむをえないでしょう。

ただし、自分でやるなら、面倒なだけで、何回でもスプレーすれば良いだけのことです。スプレー缶に入ったニトロセルロースラッカーは、どこでも簡単に入手できます。

また、ニトロセルロースラッカーは、日本語では、「硝酸繊維ラッカー」と表記することでもわかるように、乾燥後も少々吸湿性があります。それが良い、という音楽家も多いのですが、文字通りの汗の染み込んだボディやネックというのはどうも…。

Stewart McDonald’s Guitar Shop Supplyでは楽器に使用できる高性能の水性塗料を推奨しています。

取り扱いの容易性や対環境性を考えると、水性塗料が良いのかもしれませんが、スプレーガンを持っていないと使いにくいでしょう。最近では、水性のラッカー塗料ができているようです。

自分で塗装するときに気を付けることがあります。

まず、できるだけ遠いところからスプレーすることです。これは塗料の「垂れ」を防止して均一に塗料を乗せるためです。

また、できる限り、風の無いホコリのたたない場所で素早くスプレーし、すぐにぶら下げることです。真上から見て、最も投影面積の小さい状態で乾燥させれば、ホコリの塗り込みを最も防止できます。

なお、エボニーなどでない限り、オイル仕上げは推奨できません。

 

3.2.       染色(木目を見せる透明仕上げに適用)

アッシュやセンなど木目のはっきりした材料に透明塗料を使用して仕上げるときには、三通りの方法があります。

(1)   色+クリアコート

(2)   透明色塗料塗布

(3)   染色+透明色塗料塗布

(1)は、塗装前に染色をおこない、後は全て透明の塗料を塗るものです。

(2)は、木地に透明赤や透明青の塗料を塗るものです。

Stewart McDonald’s Guitar Shop Supplyでは(3)を推奨していますが、私は上記の(1)しか経験がありませんので、(1)を説明します。

木材を着色するには、

(1)   染料

(2)   顔料

の二種類の材料があります。

染料(stain)の例

染色の例

顔料(pigment)の例

一般に、

         染料は有機物で透明感が強いが経年変化が大きい

         顔料は無機物が多く不透明で経年変化には強い

と考えて良いと思います。

好みに合わせて選択しますが、木目を活かすなら、やはり染料でしょう。ただし、顔料は木地の導管を埋めるので、コントラストがハッキリと出せます。

染料には、溶剤の種類で二種類あります。

(1)     水溶性染料

(2)     アルコール溶性染料

水溶性染料は、文字通り、水に溶けるので、取り扱いが容易です。

アルコール溶性染料は、アルコールだけでなく、ラッカーシンナーにもよく溶けるので、好みの色の透明塗料を容易に準備できます。FenderのCandy Apple Red などのメタリック色を再現するには、最適です。

いずれの染料も、複数の色を混ぜ合わせて好みの色を作り出すことができますが、その際、多くの色を混ぜるほど、色の純度が鈍ってくるようです。

また、粉状染料の場合、溶剤に溶かすと、全く異なる色になることがあります。

まず、木地に直接塗る前に、不要な木材で染色テストすることをお勧めします。特に、染料の濃度は見た目よりかなり濃いので、また、短時間内複数回塗布による木地の染色具合を把握するためにも、ぜひ、事前のテストをするべきです。失敗したら、サンディングのやり直しになってしまうからです。

実際の染色工程ですが、まずは、染色する木材の表面のごみやほこりを取り除いて、良く乾燥させておきます。

適切な濃度に調整された染料にきれいな布を浸し、軽く絞ってから木地表面を染色します。

この時、木目と平行に布を動かしたほうが、乾燥後の染色ムラが目立たず、仕上りが美しいようです。

コツとしては、できる限り素早く仕上げてしまうことと、同じところを何回もこすらないことです。

のんびりやっていると、特にアルコール溶性染料の場合、急速に染料濃度が上昇して、後から塗るほど、木地の色が濃くなってしまいます。

同じところを何回も染料の付いた布でこすると、そのたびに木地の色がそこだけ濃くなってしまいます。

染色作業が終了したら、良く乾燥させます。

 

3.3.       サンディングシーラー(オイル仕上げと水性塗料を除く塗装方法に適用)

サンディングシーラーとは、木地と塗装とを密着させるために塗る、下塗りの一種です。これを省いてはいけません。

サンディングシーラーを売り場に置いていないDIY店もかなりあります。

ただし、販売されてはいても、スプレー缶はなく、ポリ容器入りの状態で販売されているので、染色した木地に対しては、何らかの手段でスプレーする必要があります。私は農薬用の手押しスプレー器を使いました。

ポリウレタンサンディングシーラーは、売っている店を見たことがありません。

サンディングシーラーは、できる限り薄く塗れ、と、塗料会社の資料には書いてあるので、そのようにします。ただし、薄過ぎると、サンドペーパーで磨いたときに、下地の着色を削ってしまいますので、適切な厚さにします。

サンディングシーラーを塗ったら、最低でも数日は乾燥させます。

できれば半年乾燥させられれば、木地の導管でへこむところがカバーでき、平滑面が期待できます。

ただし、いかにもラッカーで塗装したぞ、と見せたいばあいには、逆に完全乾燥前に次工程に移ることも面白いかもしれません。

乾燥後、サンドペーパーで表面を平滑にします。その後の仕上げに悪影響を及ぼしますので、これを怠ることはお勧めしません。

400の空研ぎサンドペーパーを使って凸部を慣らします。

もし、サンディングシーラーを刷毛で厚く塗ってしまって凹凸が目立つなら、まず、♯220でざっと慣らし、その後、♯400で平滑にします。

ここで凹凸が残っていると、もう一度サンディングシーラーを塗るなど、次の段階で苦労するはめになります。

 

3.4.       色下地(水性塗料と透明仕上げを除く塗装方法に適用)

不透明色仕上げの場合、濃色系以外ではこの塗装工程の実施を推奨します。木地染色仕上げのばあいには、もちろん、要らない工程です。

これは、サンディングシーラーの上に、白色の塗料を塗って、その上に塗る塗装の色を正しく出すものです。

特に、赤色等の明色の塗装をする場合、これを怠ると、ボディひとつにスプレー缶を3本使用しないと本来の色が出ない(真紅でなく茶色く見える)、などということがあります。

塗装の厚みは、木地の色が隠れる程度でよいので、スプレー2〜3回で十分でしょう。

これも、平滑面の確保が必要ですので、十分乾燥させた後、#400のサンドペーパーを軽くかけたほうがよいでしょう。

 

3.5.       色付け

目指す色を塗ります。出来映えを左右する重要な工程です(Candy Apple Red は、ここでゴールドを塗るそうです)。これもまた、木地染色仕上げのばあいには、不要な工程です。

まず、最初の一吹きは他方を向けて吹きます。これは、スプレー缶の吹き始めには均一な粒子が出ないことがあるからで、塗装面に大きな粒子が飛び散ると、後の修正が大変になります。

数回スプレーして、数日は乾燥させ、♯400のサンドペーパーを軽くかけて、下地が透けて見えたり、凹凸があったりしなければ合格です。サンドペーパーをかける際には、角を研ぎ出したりしないよう、十分慎重に作業します。

全面に塗料が乗るように、特に取っ手の反対面、平面でない部分の塗装には留意します。

 

3.6.       色押さえ

量産ギターではこの工程があるのですが、自作では省略します(というか、どんな塗料をどう塗ったらいいのかわからない…)。

Candy Apple Red の場合には、透明赤を均一に塗ります。

 

3.7.       トップコート

最上層の塗料です。これはクリア塗料であることがほとんどです。

耐磨耗性を持たせるため、十分な厚みを必要とします。最低でも、数回のスプレーは必要です。できれば、十回以上を推奨します。ニトロセルロースラッカーの場合、十回スプレーしても、厚みは微々たるものです。

 

3.8.       研磨その1

塗装完了後、完全に乾燥させます。塗料の注意書きにある乾燥日数は必ず確保する必要があります。記載が無ければ、最低一週間でしょう。

まず、♯600のサンドペーパーでスプレー時の凹凸をならします。突起が大きくてまず♯400で作業しなければならないときは、相当注意しないとキズを作ってしまい、この後の仕上げが苦しくなります。

また、ここからは、空研ぎペーパーではなく、水研ぎペーパーをお勧めします。なぜなら、♯600の空研ぎペーパーは入手困難であるばかりでなく、研磨時の発熱で目詰まりするからです。

木地が完全に塗料で被覆されて、内部に水分の侵入する恐れがない、ということも理由にあります。

600で表面の凹凸を完全に無くしておきますが、研磨し過ぎると、下地が出てしまい、やり直しになります。下手をすると、色下地塗装からの再作業となります。極薄塗装が難しいわけです。

次に、♯600の研磨作業で発生する細かいキズを♯1000で消します。

更にその次には♯1500で♯1000のキズを消します。

ここまでで、ほとんど、勝負は決まりです。ここまで上手にできれば、この後は楽勝です。

 

3.9.       研磨その2

ペースト状の研磨剤で磨く工程です。

まず、ボディのサンドペーパー粉を完全に拭き取ります。

柔らかい布に中仕上げ剤を少量付け、磨きます。電動ポリッシャーを使用すると作業は楽ですが、慣れないと、グルグル回ってしまい、目指すところが磨けません。

この作業が終わると、もう、表面はピカピカに見えます。

次に、柔らかい布に仕上げ用研磨剤を付けて磨きます。布にごみが付いていると、そのままキズをつけてしまうため、要注意です。

この工程終了で、表面は鏡のようになります。逆に、以前の作業が不充分だと、細かいキズが目立ってしまいますので、前工程は重要です。

 

3.10.   ワックス掛け

不透明塗装済み木材の断面

塗装工程の最後は、濡れたようなツヤを持たせるためのワックス掛けです。

ラッカー塗装の場合、塗装を侵すワックスもあるため、注意します。特に自動車用の液体ワックスは要注意です。塗って数日経過してからラッカー塗装がヒビ割れてくるワックスがあります。目立たないところで試してから、全体に適用することをお勧めします。

楽器専用ワックスが各種市販されているので、これらを推奨します。

仕上げ用研磨材にワックスが含まれていることもあります。

 

 

 

 

3.11.   導電塗装

本来の塗装そのものとは違いますが、静電雑音防止のため、ピックアップキャビティとコントロールキャビティと出力ジャックキャビティ内部に導電塗料を塗布します。

これは適量をハケで塗布します。はみ出したぶんは、拭き取ります。

有毒なものもあると聞いていますので、手に付いたら手洗いした方がよいでしょう。

導電塗装の代わりに銅箔テープを使用すれば完璧ですが、作業はたいへんです。

導電塗料の例

黒い部分が導電塗装済み

銅箔テープ

 

 

0.概要  1.基本構想  2.木工  3.塗装  4.部品製作  5.組込  6.調整  7.あとがき  8.参考資料  9.付録  補遺

 

inserted by FC2 system